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どんのマカオひとり旅日記
【初日】
思いつきで決めたマカオへのひとり旅。
パンフレットを見て、チケットを予約するまでは軽い気持ちだった。
海外とはいえ、飛行機で四時間程度だし、旅行自体も四日間。
友人に、「ひとり旅なんて、すごいね!」などと言われても、自分の中では“ひとり旅”と呼ぶには全然物足りないものだった。
不安といえば、初のアジアで英語が通用しないとゆーことくらい。
マカオは全ての表記が広東語とポルトガル語らしい。
だとしたら、それは確かに全く読めないので不安といえば不安ではあるが、大したことではないと思っていた。
所詮は人と人、通じない訳がないとゆー想いもある。
しかし……。
出発前日から、やたらと落ち着かない。
緊張している。
いや、完全に怯えているのだ。
初のひとり海外、やっぱり怖い。
大きく括れば、カナダのバンクーバーまではひとりで行ったことがあるのだが、それはあくまで知り合いの家を訪れるため。
本格的なひとりは初めて。
何をしていても、頭の片隅にマカオのことがある。
当然だ。
イメージでは、ポルトガル領だった頃に建設された、アジアなのにヨーロッパを感じさせる街並みや、カジノと共に最近急増している超大型高級リゾートホテルの綺麗な景観がある。
歩いていて気持ち良いだろう。
写真を撮るにも最適だろう。
但し、今の時期は雨季に当たるので、晴れていればの話だが……。
しかし……、なのである。
大原則として、マカオはアジアなのである。
そこに暮らしている人々はアジア人、ほぼ香港人と同意。
あの、何を言っているかわからないけれども、やたらと耳障りでけたたましい会話をする人達の暮らす街なのだ。
食事をするだけでも苦労しそうだ。
新宿から成田エクスプレスに乗るのも緊張していた。
もっと言えば、乗りたくなかった。
マカオに行きたくなかった。
こんなにも心細くて淋しい想いをするのなら、普通に出社するか、国内旅行に留めておくべきだった。
お金は払ってしまったが、それでも国内にいたいくらいの気持ちだった。
二年前にグアムに行った時とは全く違う。
あの時は横浜に行くくらいの感覚だった。
ひとりとは、こうも弱々しい存在なのか。
だが、予想に反して成田エクスプレスが空いていたこと、敢えて日常モードを作り出そうと聴いていたポッドキャストが功を奏したことで、空港までの一時間半は見事に爆睡をかました。
空港に着き、改札を通る時になり、いよいよパスポートを提示しなくてはいけなくなってきた。
後戻りが出来なくなった。
「お気をつけて、いってらっしゃい」と声をかけられても、微笑めない。
顔が動かない。
眠ってた頭が覚め、ひとり旅の実感が湧いてきた。
ひとりで海外に行くことの勇気がわかった気がした。
それと同時に自分の弱さと情けなさが痛烈に理解出来た。
口では偉そうなことを抜かしながら、未だに根っこは変わらない、弱虫のままだった。
早くもそれがわかっただけで、この旅で得られた成果に他ならない。
目を背けたくて、誤魔化し続けてきたが、結局は変わっていない。
何の成長もしていなかったのだ。
ただ、もう一つの収穫も大きかった。
ひとりで感じる恐怖や淋しさを拭おうと考える時、一番最初に想い浮かぶ相手がわかったことだ。
一番最初とゆーか、ひとりしか思い浮かばなかったし、次にどこかへ旅行する時には、やはり一緒に行きたいと思った。
男はひとりで世界を彷徨い歩き、果てしない旅路にロマンを感じたいと考えるものだと思うが、それは帰る相手や場所があるからこそ、出来る妄想なのだろう。
飛行機のチケットを受け取り、出国ゲートに行くまでの時間をロビーの椅子にて読書をしたりして潰そうと思った。
しかし、いくら文字を追いかけても、全く頭の中に入ってこなかった。
こーゆー緊張状態は久々だったので、対処の仕方がわからなくなっていた。
友人に電話をすれば上手く話せずに作り笑いで終わり、メールを打てば泣き言ばかり綴り、瞳が潤んだ。
楽しみに感じていた旅行がこんなにも苦しく感じるとは、想像もしていなかった。
ゴールデンウィークとはいえ、谷間の平日だからか、空港は閑散としていた。
家族連れやカップル、夫婦がちらほら。
友達同士のグループは見当たらなかった。
……ひとりで行動をしている人も、空港で働いている職員の方以外には見つけられなかった。
搭乗ゲートには日本人よりも香港人(?)の方が多かった。
ヨドバシカメラやコジマ電気の大きな紙袋を下げ、デカい早口で互いに捲くし立てている。
互いに自分の言いたいことだけ言ってる感じだし、日本にいるから感じるアウェイ感なぞは微塵も感じていなそうだ。
一体、何十人の集団なのかわからないが、各々が思い思いのことを口にし、ひたすらに喧しい。
言葉の正確な意味もよくわからないが、“うさんくさい”とゆー言葉がぴったりな気がしたし、こんなに騒がしい民族には我々日本人が大切にしている感覚、例えば“わびさび”だとか、“粋”だとか、四季の変化や行間、無音の中でこそ感じることなどは、きっとわからないのだろうなと思った。
が、逆にこの騒々しさに育まれている文化とゆーものも、多少は見てみたいとゆー興味が芽生えたのも嘘ではない。
そこは切り捨ててしまうのではなく、知らないだけかもしれないとゆー可能性を残して、一度は経験してから結論を出したいなと感じた。
機内は満席とゆー訳ではなかった。
幸い、窓際の席だったのだが、隣りの席には誰も来なかったし、真ん中で列を三席ひとりで使っている人もいた。
隣りに見知らぬ香港人が来るのを覚悟していたが、ここはひとりの方が気楽でいい。
機内サービスだと思っていたドリンクを頼んだら、「二十香港ドル」と言われたのには焦った。
まだお金を使う心の準備が出来ていなかったし、機内でお金を使うことはないと思っていたから、棚に閉まったバックにお金を入れていたのだ。
そんなことも重なって、この旅初の汗をかいた。
だが、フライトは特に問題なく、ほぼ読書をして快適に過ごせた。
あと、綺麗なフライトアテンダントの方がいた。
前髪の短いボブ的な髪型で、日本人と言っても不思議はなかったが、肌の色が褐色で健康美人といった感じは、アジアを強く感じさせる。
改めてアジア人は似ていると思った。
フライトは順調だったが、入国審査はとても緊張して足が震えた。
先ず、受け答えが英語ではないかもしれないとゆーこと。
それに、今まで何度か冷や汗をかいた経験があったから。
入国審査カードに滞在するホテルの住所まで書かなくてはいけない時があって(確かハワイとシアトルに行った時)、その時はホテル名や友人宅までしかわからなかったので、バックの中を必死に漁った記憶がある。
住所までわからないと入国出来ないと言われたのだ。
その時は友人の携帯にたまたま住所残っていたが、今回は自分ひとり。
何かあったら、どうしようもない……。
実際、窓口でやり直しを命じられている日本人が何人かいた。
ペアで来た人で、最初にやり直しを言い渡された方は顔面蒼白。
気持ちはよくわかる。
「何で自分だけ?相手が入国しちゃったら、どうすればいいの?」とゆー不安が顔に書いてある。
こーゆー時、ひとり旅人は誰にも頼れない。
だからガイドブックを睨み、万全を期して臨むしかないのである。
こちらが「Hi!」と話しかけても眉一つ動かさない香港人受付だったが、何も言われずにパスポートを返却された。
OKだった。
何事もなかったかのように、パスポートを受け取り、空港出口へ向かう。
が、本当は心の中で飛びっきりのガッツポーズなのである。
空港出口で現地係員の人に会えるか否かとゆー幾ばくかの不安はあるにせよ、ここまで来れたら勝利も同然。
翌日からひとりでどう行動し、どう過ごすかなどとゆー不安は、全て消えている瞬間なのだ。
空港出口では現地係員にすんなり会え、何の問題もなくホテルまで連れて行ってもらった。
ホテルのキーも渡された時、微妙に部屋番がわからないとゆー気持ちもよぎったが、ひとり部屋としては充分すぎるほどの広さのツインが用意されていた。
部屋に足を踏み入れた瞬間、「やっと着いたぞー!」と涙ながらに叫んだのは言うまでもない。
部屋を一通り見回し、荷物を解いて着替え、寝る準備をした。
もう深夜二時を回っている。
寝る前にテレビをつけてみた。
すると、チャンピオンズリーグのリバプールVSチェルシーがやっていた。
ここまで来てサッカーかと思われるかもしれないが、サッカー馬鹿としては万国共通であることや日常が感じられることが物凄い安心感なのだ。
長かった一日の終わりを、サッカーで締め括れるほど嬉しいことはない。
【二日目】
昨夜が眠りに就くのが遅かったため、快眠とは言いづらかったが、それでも目覚まし通りに九時起床。
明け方四時過ぎに寝たことを考えたら五時間弱の睡眠だが、でも、そんなの関係ねぇ!
昨日は大仕事をやってのけたのだから、今日はきっと良い日になる。
そんな気がする。
天気だけ気になったが、カーテンの外に雨は見えない。
快晴でもないが、曇り時々晴れ、とゆー感じか。
まぁ、悪くない。
雨季真っ只中でこの天気なら上出来だ。
晴れ男の面目躍如。
ガイドブックのマップを見る。
どこが栄えていて、どこが見所なのか全然わからない。
そもそも、このタイパホテルがどこかもわからない。
しかし、地図さえあれば、どこに行っても迷わずに、ほぼイメージ通りに歩ける自信はあった。
最悪、迷ったらタクシーで構わない。
今日はタイパ島を歩き倒して、自分の中に取り込んでやる。
刻み込んでやるのだ。
日本から持参した小さなパンを二つ、口に押し込み、シャワーを浴びた。
シャワーの取っ手も日本のそれとは異なり、一つで水の温度も強弱も調整するタイプだった。
シャワーヘッドが固定式のタイプで多少のやりづらさもあったが、ホテルに関しては日本とそれほど変わらず、居心地を悪いと感じることもなかった。
シャワーを浴びて着替えると、もらったばかりのエコバックにガイドブックを三冊、iPod、傘、パスポート、上着を入れて部屋を出た。
「今日は歩くぞ!」の気合いの掛け声と共に。
外出中にハウスキーピングの人が入ってくるのが不安だったが、盗みを働かれないよう、チップを十ドルだけ枕元に置いておいた。
チップは不要と聞いた気もしたが……。
ホテルを出ると、迷わず左へ向かった。
右は交差点で道路を渡らなくてはならないし、人が多かったから、自然と人の少ない方へ歩を進めた。
いつもの癖。
確かに繁華街からは遠ざかる可能性が高いが、その方がガイドブックには載っていない、小さくても魅力的な場所に出会えることが多いのを、経験から学んでいた。
しかし、少し歩いてからガイドブックを開いてみると、今回に関しては失敗したと思った。
どうやらこのまま行くと山の中へ入っていくらしい。
ふと視線を上げると、車道を挟んで向こう側に、下へ降りる階段らしきものが見えた。
これしかないと思い、車が来ないタイミングを見計らって、車道を渡った。
下へ続く階段の先は湖に面していて、砂利道だった。
廃墟らしきものが何件か建っていた。
しかし、その古びた建物が何とも言えない味を出していて、写真を撮った。

今は誰も住んでいないであろう建物だが、そこからはいくつもの物語を感じさせるオーラがあった。
湖沿いの砂利道を歩いていくと、ベンチがあり、モデルルームが建ち並ぶ公園へ辿り着いた。
小さな段々畑のような花壇に小さな西洋風庭園。
どれも中途半端な作り物だったが、もし近所に住んでいたら、のんびりするには申し分ない場所だった。
湖の向こう側には三十階建て以上の大きな建物が建設中だったり、既に完成したアジア最大のリゾートホテル、ホテルヴェネツィアンが見えた。
とりあえず、あれを目標にして歩いて行けば迷うことはない。
目印を見つけたことでだいぶ気分も軽くなった。
しかし、ヴェネツィアンも建設中のも、物凄いスケールだ。
以前はどんな土地だったのかわからないが、おそらく田舎町だったのだろう。
だとすると、完全に新しい街を作っている。
この小さなマカオは、建設ラッシュによって完全に色が変わるだろう。
雇用もかなり生まれるだろう。
が、それがマカオにとってプラスに働くのか、どんな影響を及ぼすのか、今はまだわからない。
近くで見るヴェネツィアンは圧巻だった。
外観だけでも東京ディズニーシーと同等のレベルを感じた。
……一応、名目上はホテルなのにである。
綺麗に手入れされた草花とヨーロッパを感じさせる建物は、見るだけの価値は十二分にあった。
早くも夜のライトアップが見たいと思わせる建物なんて、そうそう出会える訳ではない。
ただ、本当に凄いのは中身だった。
入り口がいくつかあるので正式なエントランスがわからなかったが、他の観光客に倣って入ってみた。
数秒間、口が開いたままになった。
一歩足を踏み入れると、そこはヨーロッパの大聖堂のような造りしていた。

天井や壁面には様々な天使の絵が描かれ、天井はとても高い。
入って正面には厳かな金色の像が置かれており、そのまま長い廊下が続く。
廊下の両脇には世界の高級ブランド店がずらりと肩を並べ、奥には大きなカジノスペースが見える。
口が開いたままなんて記憶にないが、これは正直、桁が違う。
ここまでスケールの大きな建物だと思っていなかった。
ガイドブックやパンフレットの写真が上手く撮れているだけだと思っていたが、実物を見ると写真の方が遥かに陳腐に見える。
こんなことって、あるのだろうか。
一階のカジノ中央のエスカレーターを上がっていくと、そこは三階になるのだろうか。
ヴェネツィアが再現されている。

勿論、河は小規模だが、長さは充分。
東京ディズニーシーに全く引けを取らない。
河の周りには相当数の、おそらく二百店舗以上のお店があり、人々が買い物を楽しんでいる。
誰がタイパ島は半日で充分だなんて言ったんだ?
それはもう、遥か昔の話だぞ。
今はこのヴェネツィアンを探索するだけで丸一日以上、絶対にかかる。
間違いない。
ヴェネツィアンだけでディズニーシーやお台場以上のエンターテイメント性があったが、ヴェネツィアンの周囲やコロアン島へ続く道は開発途中で、今はまだ見るべき処はなかった。

観光客も全くいなかったが綺麗な場所だったので、セルフタイマーを使って何枚か写真を撮った。

やはり人はガイドブックに載っているような名所のようなトコにしか行かないのだろうか。
どこにも載っていない、小さな横道のような場所にこそ、その土地の本当の姿があるように思うのだが……。
もともと決めていたことだったが、今回の旅行もひたすら歩いて、マカオを自分の中に位置付けようと思い直した。
ヴェネツィアンからはタイパ島で唯一栄えている繁華街を通って、ホテルに帰ることにした。
平日だからか、それとも昼間だからか、唯一の繁華街にしては活気がなかった。飲食店もあまり開いていないし、人通りもまばら。
細い道が三本ほど走っていたので、適当に歩いてみることにした。
車一台通るのがやっとの細い道を、バスも含めて物凄いスピードで走ってくる。
繁華街の一本だと思っていた道は両脇に民家らしき平屋が建っていて、車を除けばのどかな道だった。
ヴェネツィアンもそうだったが、基本的に建物の色使いが淡い。
パステルカラーってゆーのか、強くない色を多く使いながら、同系色の強めの色をアクセントカラーとして使ったり、日本ではなかなか見ない色調のような気がする。
言われればよく知りもしないのに、「なるほど、ポルトガルっぽいな」などと思ってしまう。
ポルトガルっぽいかどうかは正確ではないが、港町っぽさを感じさせることは確かだった。
繁華街を通り抜けると、ちょうど泊まっているホテルだった。
たまたまだったが、見覚えのあるトコに出て安心した。
ランチはヴェネツィアンのフードコートで食べたが、繁華街でコンビニや酒屋を見つけたので、買い込んだ食料を部屋に置き、今度はタイパ島の北へ向かうべく、気合いを入れ直した。
四日間の旅といっても、自由になるのは二日半。
今日はタイパ島を歩き倒し、明日はマカオ半島だ。
天気の心配も多少あるが、それは晴れ男の腕の見せ所。
とにかく、タイパ島は今日で取り込む。
ホテルの前の大通りをずっと北へ向かっていった。
観光地とは違う、マカオ本来の色を強く出してきた。
先ず驚いたのが、高層マンションの数。
少なくとも二十階以上の高層マンションが至る所に何十棟も建っている。
庶民は平屋ではなく、高層マンションに住むのだろうか。
新しく綺麗なのもあるが、古びたそれが圧倒的だ。
しかも、まだまだ建設中で、いくらでも建ちそうな感じだ。
これを見ただけでマカオには地震がないことがわかったが、それよりあんなに高層マンションを建てるほどマカオに人は住んでいるのだろうか。
大型ホテルや建設現場で雇用されている人以外、どのような生活を送っているのだろうか。
まだこの程度の滞在ではわからないことがたくさんある。
あと、タイパ島には信号がないようだ。
おそらくゼロである。
交通量の多い場所でも、人が無理矢理横断して、車を止めるのが普通のようだ。
慣れないものだが、現地の人と並んで横断していくうちに、少しずつ慣れていく。
ただ、日本でやったら、交通事故は免れないだろう。
栄えていそうな場所を探して歩き回ってみたが、皆無だった。
地図を片手に商店街らしき場所をうろちょろしてみたが、店らしき店はそんなにない。
あったとしても店どうか疑わしかったり、誰も入らない店員のみの店ばかりだった。
お洒落なお店はないし、日本人の感覚からすると汚らしい店構えで入る気すら起こらないような店ばかりだった。
マックとセブンがあったが、マックは日本と同じ感じ。
セブンは日本のコンビニとは全く異なり、ドアはないし、品揃えも少なく、値引き品や二個買うと安くなるとゆーようなポップが貼ってあったりした。
店員はとても真面目そうだった。
古めかしい高層マンションにどのような階層の人々が住んでいるのかは謎だったが、マカオ大学周辺の平屋にはお年寄りが多く住んでいるようだった。
放し飼いの犬と散歩したり、友人同士で椅子に腰掛けて談笑している姿が多く見受けられた。
若い現地の人々は働きに出ているからお年寄りが目に付いたとゆーこともあるかもしれないが、お世辞にも綺麗とは言えない平屋、電気の全く点いていない家々は、日本以上の格差社会であることを物語っていた。
マカオの社会保障制度のこととかは全く知らない。
年金の有無や税金、何に税金がかかっているのかや庶民の所得水準など。
物にもよるが、食料品は日本の大体五〜七割程度の値段のように感じる。
観光客向けに少し高めに設定してあるのか。
だとしたら、現地の人々はどのようにして生計を立てているのか。
見えないマカオに興味が湧いてくる。
コロアン島に行けなかったのは残念だったが、そうなっても仕方ないと思ってはいた。
ガイドブックやネットに、「タイパ島は一時間もあれば……」と書いてあったけれど、そんなはずは絶対にないと思っていたから。
とはいえ、島全体として見た時に、自分の予想よりも観光名所となる場所は少なかった。
ヴェネツィアンくらいだ。
カジノをしたい人にはいくつかカジノがあったが、それ以外に見るべき場所を挙げろと問われても、何もない。

ただ、自分としては、島全体を散策する価値は充分にあると感じた。
それはどの土地でも同じかもしれないがガイドブックやネットの情報、あるいはタクシーで通っただけでは街の本質なんてわからない。
歩き回ったって、数日じゃ何も見えない。
でも、例えばニオイ。
正直言って、マカオは臭い。
歩いていると、日本ではなかなかお目にかかれないような異臭と多々出会う。
しかし、それは単に汚くて臭いとゆーのではない。
確かに街は綺麗とは言い難い。
現地の人か観光客かわからないが、歩き煙草は当たり前だし、そのくせに携帯灰皿は持たない。
ポイ捨てが普通のようだ。
道には様々なゴミが転がっている。
しかし、ゴミ箱も多いのだ。
日本では見かけないほど、街にはゴミ箱がいっぱいある。
だからこそ、そのゴミ箱から臭さが漂ってくるし、出店で売っているドリアンも臭いし、至る所で焚かれている線香もまた臭い。
それらが混ざると、尚臭い。
香草も臭いし、車やバスの廃棄ガスも臭い。
もぉ、どーしよーもないくらい、臭い。
ただ、良いことではないが、ある意味、それがマカオの強烈な印象になったのは間違いない。
【三日目】
実質的には最終日の三日目。
目覚ましは七時にセットしておいた。
消えているはずの電気が点いたままだったせいで熟睡出来なかったようで、二度寝してしまった。
それでも七時半には起きた。
テレビのスイッチを入れ、昨日買ったチョコ蒸しパンとオレオをグレープジュースで胃に流し込む。
いよいよ今日が本番だ。
最初で最後になるかもしれないマカオ半島上陸の日。
今日は徒歩では行けないので、タクシーに乗らなくてはならない。
食事もヴェネツィアンでは取れない。
否が応にも現地の人と接触しなくてはいけない。
言葉の誤魔化しも利かないし、マカオの神髄に迫れるのは今日しかない。
昨日慣れたのは、あくまでタイパ島。
昨日とは違う。
それを肝に銘じて、今日も全力で頑張ろう!
シャワーを浴びながら、最初にタクシーでどこに連れてってもらうかを考えた。
マカオタワーではその後のことを考えると大変ぽいし、かと言って、色々回った後に最南端に来る元気が残っているとも限らない。
中心地のリスボアホテルから北に向かいつつ、世界遺産の協会を巡っていくのが無難か。
しかし、地図を見ただけでも地形が入り組んでいるのがわかる。
道に慣れてから中心街を回った方が効率がいいとも思える。
結局、悩んだ末にリスボアホテルから教会巡りをしていくことにした。
最悪、マカオタワーには行けなくても仕方ない。
帰りのタクシーやタイパ島からも見えるだろうから。
それよりマカオの本質が最優先だ。
今日は全力で歩き疲れてやる!
心に決めた。
相変わらずの湿気に曇り空。
今日は晴れて欲しかったが、雨じゃないだけで良しとするか。
さて、タクシーを捕まえて、行き先を伝えなければならない。
いきなり難問だ。
タクシーはやたらと走っているように見受けられるが、実際に誰かが捕まえているのは見たことがない。
止め方は日本と同じでいいのだろうか。
料金は安いと書いてあったが、きちんとメーターが付いているのだろうか。
ボラれないだろうか。
そんなしょーもないことから気になってくる。
異国の地では気が小さく、いつも以上に情けなくなるようだ。
とりあえず、ホテルの前に出てみた。
大きなホテルにはタクシー乗り場があるが、このホテルにはない。
当然だ。
しばらくホテルの前で粘ってみるが、空車の来る気配はない。
客を乗せたのなら何台も通っているのだが……。
ふと視線を上げると、反対車線の方にはやたらとタクシーが走っている。
それも空車が多い。
理由はわからないが、捕まえないことには始まらない。
急いで反対車線に渡り、手を上げてタクシーを捕まえた。
海外のタクシーは自分でドアを開けるとゆー知識があったので、ドアに手をかけようとしたら、勝手に開いた。
自動ドアだ。
よく見ると、ドアにきちんとシールが貼ってある。
どうやら最近のことかもしれないが、ほとんどのタクシーは自動ドアになっているのかもしれない。
知識が古くて更新されていなかった。
ともかく、タクシーに飛び乗り、地図を片手に行き先を伝えた。
運転手は真面目そうなオッチャン。
オッチャンは、「……リスボア、OK」とだけ言い、アクセルを踏み込んだ。
メーターもきちんとある。
これなら心配ない。
海外初タクシーとゆー、自分の中では大きな課題も意外に呆気なく片付いた。
タクシーだとタイパ島を出るのに、二分とかからなかった。
ブログで仕入れた情報によると、マカオ半島への最短はタイパ・ブリッジらしい。
マカオ半島とタイパ島を結ぶ橋は三本あるのだが、真ん中にかかっているのがタイパ・ブリッジ。
なのに、たまにセコいドライバーは他の橋を使おうとするらしい。
正直、リスボアまで行けたらOKだし、ズルいってゆーのも伝えられないし、どーでもよかった。
真面目そうなオッチャンだったし、そんな心配は不要だったのだが、一応、念のためにとゆーか、何となく窓の外をきょろきょろ見ていたら、両サイドに橋が見えたので、これが真ん中のタイパ・ブリッジだとわかった。
海外旅行に行くと、自分以外の全ての人が盗人や悪人かもしれないとゆー疑心暗鬼に陥りがちだが、やはり人と人。
文化や言葉は違えど、そうそう世の中悪い人ばかりじゃない。
ましてやマカオなんて発展している真っ最中。
治安が悪いなんて評判になったら、せっかく開発中のホテルやマンションも無駄になってしまう。
それは政府だけじゃなく、末端の現場で働く人間や住民もわかっているのかもしれない。
普通の人はそう頻繁に、マカオへ来れる訳じゃないので、ほぼ一期一会。
そこでの印象が悪かったら、口コミで大きな被害になりかねない。
観光客を相手に商売している場所とゆーのは、国の内外を問わず、商いに携わらない人間までも、そーゆー意識を持つ必要があるとゆーことを教えてもらった気がする。
観光客相手の商売なんて、楽じゃない。
自分のせいじゃなくても、客が減少したりするんだから。
そう考えると、呑気に観光旅行なんて出来なくなっちゃうかもしれない……。
オッチャンが、「リスボア」と言って、タクシーを止めた。
「サンキュー」と言いながらお金を払おうとしたら、オッチャンの背後が黄金に輝いていて息を飲んだ。
写真で見たリスボアは確かに金色っぽかったが、本当に金色なのか。
しかも、当たり前だがホテルなので、金色の面積がハンパなさそうだ。
壁全てが金色。
ハイセンスなのかどうかはわからないが、発想力と実行力の時点で感服する。
そんなことを考えつつ、お釣りをもらってタクシーを降りた。
「はぁ〜……」と、自然に息が口から漏れた。
唖然。
表現するなら、それがぴったりだ。
派手なネオンが周囲の景観を乱すとか、そんなレベルじゃない。
こんなに金色を主張していて巨大な物体、見たことがない。
自己主張が強いとゆーか、主張以外の何物でもない。
青空には不釣合いな金色の巨大な建物、それがリスボアだ。

カジノ街らしくなってきた。
ふと気が付くと、タクシーから降りた場所は交通量の多い三角州のような場所だった。
少し冷静になってリスボア以外に目を向けると、雑多な雰囲気はタイパ島と同じだが、のどかで田舎っぽさを残しているタイパ島とは一変、区画整備されていない新宿の高層ビル群に放り込まれたような感じがした。
しばらくの間、戸惑ってきょろきょろしてしまった。
タイパ島とは違って信号はあるようだが、とりあえず、この三角州から抜け出さないことには始まらない。
僕は昨日と同じようにタイミングを計って、小走りで商店街らしき方へ向かった。
そこはマカオとゆーよりはイメージ通りの香港といった感じの商店街で、朝から大きな声が飛び交い、賑わっていた。
ガイドブックを片手に人波に流されていくと、少し行ったトコを右に曲がれば観光名所であるセナド広場があるとわかった。
先ずはセナド広場を中心に土地勘を養って、それからマカオ半島の中心部を回ろうと考えた。
ガイドブックの写真には青い空を身にまとって輝いているパステルカラーのセナド広場がある。

つくづく、今が雨季であることが残念でならない。
天気のせいか平日のせいかはわからないが、有名な観光名所にしては人がまばらだった。
数人、大きくがっちりとしたカメラを構えてセナド広場を撮影している人がいたが、今日はあまり良い絵が撮れそうにない。
僕も素人ながらに、「……やはり灰色にパステルは映えないな」と思っていたら、ぽつりと雫が落ちてきた。
早くも雨到来。
マカオ半島に着いてまだ十分経ったくらいで雨なんて、そんな残酷な仕打ちがあるのか。
完全にスネオモードに入ろうかとも思ったが、独りだし、ある程度は覚悟していた事態だったので、渋々持参した折り畳み傘を開き、歩き続けた。
小雨かと思った雨は、すぐに本降りになってきた。
傘を叩く音が鼓笛隊の小太鼓のようだ。
日本で散歩している時に雨が降ってくるんだったら、それもまた一興などと思える余裕もあるが、日にちに余裕がない今回に限っては残念の一言だった。
雨のせいでガイドブックを開くのが面倒臭くなってしまったので、適当に歩いていたら、民家ばかりなのにアーケードのある道を見つけた。
傘を差す手間が省けるので、その道を行くことにした。
普通の住宅街の午前中だからだろうか、全く人に会わない。
目に映るモノ全てが新鮮なので首を左右に動かしながら歩いているのに、人の気配すらしない。
……本当に人が住んでいるのだろうか。
もしくは、日本人以上に生真面目で、みんな働いているのだろうか。
相変わらず、マカオで暮らす人の生活が見えないまま、二十分近く歩くと、公園に出た。
公園前にはバスの停留所もあり、そこでは数人がバスを待っていた、……傘も差さずに。

せっかくだから公園を通り抜けようとすると、公園にはベンチに座るお年寄りが数人、楽しそうにお喋りしている。
でも、みんな傘は差していない。
つーか、持っていない。
大きな木の下のベンチは雨を避けてくれてはいるが、それでも濡れない訳ではない。
でも、そんなことは気にせず、大きな笑い声を上げているご老人達。
傘を差している自分が逆に恥ずかしくなってくる。
とはいえ、普通に日本人の感覚からしたら、傘なしはきつい。
ん〜、もしかしたら、彼らはこの雨がすぐに止むことを知っているのかもしれない。
そんなことを考えずにはいられないほど、マカオの人達は雨すら気にしていなかった。
アップダウンの激しい公園を抜けると、車通りの激しい通りに出た。
地図を見ても現在地がよくわからなかったが、車通りが多いとゆーことは繁華街が近いはずだ。
東西南北の検討もつかないが、とりあえず歩くことにした。
歩道は長く見積もっても幅一メートルしかなく、そこを多くの人と擦れ違う。
すぐ横をダンプカーが何台も走り抜ける。
車が走っていない側は小さな工場がたくさんあり、それらはまだお昼前だとゆーのに真っ暗闇に包まれていて、何を作っているのか全然わからない。
数人の従業員がいるのは確認できるが、何の作業をしているのかわからない。
アニメに出てきた未来都市の廃墟のような雰囲気があった。
きっとここで殺されたりしたら、一生発見されないんだろう。
擦れ違う人に両サイド、四面楚歌とゆーか、どっちに転んでも良いことはなさそうなので、ひたすら前を見続けて、真っ直ぐ歩いた。
ただ歩くだけでも、日本を歩いているのとは全然違う。
常に頭と身体を緊張と興奮が駆け抜けていく。
そして、どっかにある恐怖心もちょくちょく顔を出す。
ただ歩いているだけで感じる刺激、こんなの久しく経験していない。
非日常を全身に刻み込んでいる感覚が確かにある。
今いる慣れた現状に甘んじることは得策ではないと常に新しい場所を求め続けることこそ、人生の醍醐味なのではないかと、そんなことを考えながら歩いていた。
雨が止んで前をしっかり見えれるようになると、マックや薬局が現れ、商店街らしくなってきたと思ったら、急に綺麗な建物が姿を現した。
美術館だろうか。
お洒落なデザインの外観である。
人の集まり具合も凄い。
マカオの人達は美に対して敏感なのだろうか。
海と美術館、マックと薬局の位置、あと公園の横の大通りを真っ直ぐ歩いたことを考慮すると、どうやらここは国境のようだ。
それなら納得がいくが、国境まで歩いてきたのか。
本来ならもっとずっと東へ向かっているはずだったので、残念な気持ちが汗とともに噴き出してきた。
マックでランチを済ませてしまおうかとの思いもよぎったが、現地の繁華街でランチを取ると決めていたので、また歩くことにした。
とりあえず、現在地がわかったことは大きく、道の名前もわかったので、地図を見ながら南へ進んだ。
迷いながらも三十分くらいすると、制服を着た現地の子を多く見かけるようになった。
時計を見るとちょうどお昼すぎだったので、ランチを食べに学生が出歩いているのかもしれない。
マカオにお弁当や給食とゆー文化があるのかどうかも気にはなったが、それより学生が集まりそうなお店で休憩を取りたいとゆー気持ちしか残っていなかった。
すると、中学生くらいの子達がどんどん入っていくお店があった。
入り口からはそんなに大きなお店には見えないし、デザイナーっぽい作りの外観からは中学生が普通にランチするようなお店にも見えない。
でも、やたらと大人気だ。
……気になる。
外にメニューも置いてなかったので躊躇もしたが、意を決して扉を開けた。
すると、意外に中は広く、コンクリート打ちっぱなしの内装に大きな壁掛けテレビと、お洒落な作りだった。
気になる学生達はその壁掛けテレビの見える位置を陣取って、テレビを見ながらご飯を食べている。
よくわからないけど、バラエティー番組がやってるようだ。
適当な空席に座ろうとすると、「こっちに座って」みたいな感じで指示を受けたので従った。
座ると同時にメニューが来て、値段を見てみるとかなりリーズナブルな価格だった。
なるほど、これなら学生が集まる訳だ。
夜はバーに変わるらしく、アルコールのメニューも豊富にあった。
マカオの人達って、お酒とかは好んで呑むのかな。
そういや呑み屋っぽいのは全然見かけてないし、酔っ払いも見かけてない。
マーケットにアルコール類はあったけど、ビールとワインが少しあるくらいだった。
まぁ、今はとにかくお腹が空いているし、学生君達には悪いけど、ランチセット+デザートも食べちゃおっと。
かなり冷房も効いているので、外から入ってきた時には有り難かったそれも、長いするには邪魔でしかなかった。
汗も引いて落ち着いた頃にはちょっと寒くなってきたし、早めにプランを決めて、お店を出なくてはいけなかった。
地図を眺めているとこの近くに小さな庭園があって、そこを抜けるとかなり丘を上ったトコに教会があり、それも綺麗そうだったので、そこへ行くことにした。
しかし、地図上ではそんなに遠くないし、簡単に着くだろうと思っていた教会は、平面の地図だけではわからない激しい階段の上り下りの果てにあった。
予想外に力を使い果たしてしまったし、雨が上がってからどんどん気温も上がってきたこともあり、もはや歩きたくないとゆートコまで行きかけていた。
大きな広場や公園を巡りながらふらふらしていると、出発地点のリスボアに着いた。
午後四時過ぎ。
まだ周囲は明るいが足に感じる疲労感は、もうベッドで横になりたいと叫んでいた。
大まかに言えば、マカオ半島の八割は歩き回ったことになる。
あとは南西にあるマカオタワーの方だけ。
北海道で言えば、函館的な感じ。
今回の旅行を完全にやりきった感で満たすため、頑張ってマカオタワーまで歩くことにした。
リスボア付近からマカオタワーへ行くには陸伝いに海沿いを歩いていくパターンと、海上を走る瀬戸大橋みたいなのを渡っていくパターンがある。
マカオタワーの帰りにリスボアへ向かいながら教会も巡りたいと思ったので、瀬戸大橋パターンで行くことにした。
右手にマカオ半島の派手なホテル、左手にタイパ島を眺めながら歩く道路は、これまた大型車が接近しているのでちょっと怖かったが、海風がとても心地良く、鼻歌交じりに歩いた。
結構な距離のある道だったが、僕以外に歩いている人はいなく、釣りを楽しんでいる二人組のオッチャンがいるくらいだった。
さすがに慣れたとゆーのもあるし、遠くからずっと見えていたとゆーこともあり、マカオタワーにはさほど驚かなかった。
それでもマカオタワーの綺麗でスマートなラインは人目を惹きつけるものがあった。

東京タワー、エッフェル塔、通天閣と並ぶ第四のタワーがマカオタワーなのだ、などと思ったりもした。
マカオタワー内には小さなお土産屋さんとカフェがあり、あとは展望台へ繋がるエレベーター。
展望台に行こうかとも考えたのだが、先ずはカフェで甘い物が食べたかったので、マカオ名物らしいエッグタルトとワインを頼んで休憩した。
平日の閑散としたマカオタワー内で一息ついていると、ワインが全身を駆け巡っていくのがわかった。
朝から七時間以上歩き回っている身体に心地良く訪れる酔い。
十秒でホテルのベッドに倒れ込める状況だったらどれほど幸せだろうと思いながらも、本当のラストスパートのためにガイドブックをめくった。
マカオタワーから北上していくと世界遺産の教会がちらほらあるようで、ライトアップされた教会を見つつ、リスボアのタクシー乗り場から最後の晩餐はヴェネツィアンで締めるとゆーコースにしようと決めた。
小一時間ほど休憩して、外へ出たら夕日が湖の向こうに沈んでいく時間だった。

湖にボート部っぽい学生達がちょうど漕ぎ出そうとしていて、その後ろ姿と夕日の色具合がいい感じに青春を演出している。
自分は旅行者としてマカオへ来ているが、今の処、日本人とほとんど変わらない暮らしのような気がする。
一生懸命に働く姿。
スポーツを頑張る姿。
友人と談笑する姿。
家族と楽しく食事する姿。
どれも日本でも目にする光景。
世界は広いと同時に、とっても狭いと感じた。
日本とは全く異質の文化や景観の地にほんの数時間で行ける。
そこにあるのは、未経験の世界であり、しかし、普段と変わらない世界。
世界は多様であるが、根っこは人と人。
慣れない部分はあるけれど、相容れない訳じゃない。
現状に不平不満を垂らしていたら、新しい場所に行ってもきっと変わらない。
暮らしている場所で精一杯に暮らすこと、それは全世界共通なはず。
それが唯一、人間がしなければいけないこと。
いつの時代もそれは変わらないこと、きっと。
ライトアップされた街並みは綺麗だった。
ヨーロッパ風の重厚感のある凹凸の白い壁面が淡い橙色に染められて、幻想的な空気を醸し出す。
昼間の喧騒はどこへやら、少し上ったトコに遠くから聞こえる車のノイズや話し声も、微かに聞こえる感じがいい。

全体的に坂や階段が多く、街全体の高低差が激しいので、音の反響とかにももしかしたら影響しているのかもしれない。
教会がライトアップされる姿も新鮮で、その神々しい姿は僕の旅行の終わりを名残惜しむようにも、祝福してくれているようにも見えた。
ただ、もう数時間で今回の旅行も終わる。
日本へ戻らなければならない。
それは淋しさでしかなく、嬉しさはどこかに隠れてしまっているようだった。
絵本の中のような橙色の空気に包まれながら、このまま絵本の一ページに収まってしまえたらどんなに幸せだろうかと思った。

リスボア周辺に近づいてくると、賑やかになってきた。
午前中とは違い、夜の歓楽街といった感じだ。
若い男女が溢れ、楽しそうにしている。
日本と変わらない光景。
日本を出る前には喧しいとしか思っていなかった広東語も、今ではそこまで耳障りではない。
それは郷愁以外の何物でもないのだろうが、感傷的になってしまう。
初めての独り旅で初めての土地。
子供にとっての初めてのおつかいと大差ないのだろうが、達成感でいっぱい。
最初で最後になるかもしれないマカオ半島をもう離れるのはやっぱり名残惜しいので、少しぷらぷらしてから、リスボア前に行って、タクシーに乗った。
二回目のタクシーは慣れたもんだった。
「ホテル・ヴェネツィアン」とだけ告げたら、わかってくれた。
媚びるような毒々しいネオン街から抜けるのに一分とかからなかった。
後ろを振り返ると、離れたおかげで全体が見える。
華々しい光を放ってるのは、ほんの一部だけだとゆーこともわかった。
リスボアとヴェネツィアンとの間に、栄えている場所はない。
生活するのには必要な分だけのお店が軒を連ねている商店街があるだけ。
このギャップが本当に不思議だ。
車で十分あれば北から南までいけそうな小さな島に五十万人以上の人が暮らしている。
それがマカオの姿であり、魅力。
まだまだ発展途上のこの国は、きっと数年間で見違えるような変化をするだろう。
その時に今あるマカオの魅力が失われてしまわないかとゆー危惧もあるが、また訪れてみたいと思う。
今はマカオ一華やかなヴェネツィアンが、その時にはどんな位置付けになっているのかも気になる。
そんなことに想いを馳せながら、もはや歩き慣れて安心感すら覚えるヴェネツィアンで最後の晩餐を済ませ、ちょっと小洒落たバーでドルチェとカクテルを頼み、旅の余韻とともに贅沢な時間を過ごした。
ほろ酔い気分でヴェネツィアンを出て、最後となる宿泊ホテルまでの道のりを、一歩一歩記憶に刻み込むようなつもりで歩いた。

【最終日】
もはや思い残すことはなかった。
久々にやりきった感でいっぱいだった。
昨日の疲労のおかげでぐっすり熟睡はできたものの、やはり早起きしてしまったが、足の疲労は全然抜けておらず、むしろ筋肉痛で歩くのがしんどいし、足の裏も痛かった。
本当は近所の公園にでも行って、朝食を取りながら読書でも……、とか考えていたけど、荷造りだけで精一杯。
これから半日かけて日本に帰る訳だし、のんびりやろと。
公園のベンチで食べるはずだったパンとお茶を部屋で開けた。
すると、パンは普通に美味しいのに、お茶がとんでもない味で口をつけただけで飲めなかった。
香りはまさに草といった感じで、味も草を煎じたみたいな味なのに、とっても甘くなっている。
まだ青汁の方が全然いい。
つーか、何でこんなものを売ってるの?
誰か買ってるの?
もしマカオでの売れ筋商品なのだとしたら、ちょっと見方が変わっちゃうかも。
マカオで取る最後の食事は後味の悪い結果となってしまったが、万が一のために買ってあったミネラルウォーターに助けられた。
でも、この変なお茶を覗けば、本当に満足のいく、素敵な旅行となった。
香港に近くて、喧騒とゆー言葉とカジノしかイメージのなかったマカオ。
実際は本当に小さな島で、カジノなんて馴染みのない場所も、定食屋に入るのと同じような感覚である。
騒がしい場所もごく一部だし、世界遺産となった歴史的建造物の多いヨーロッパ風の街並みは綺麗だし、自然の溢れる景観も癒やされる。
信号があまりなかったりするのはちょっと怖いが、至るトコに綺麗な公衆トイレがあることにも好感が持てるし、少し無愛想かもしれないが、基本的なサービスに問題はなかった。
ちょっと休暇ができた際に行くには手軽に楽しめて、とってもいい場所だと思う。
日本から四時間程度だし。
ただ、季節には注意して、雨季は避けた方がいいかもしれない。
雨季を避けるとかなり暑いらしいが、それでもマカオ半島にある世界遺産や街並みは青い空にこそ映える。
それは間違いないし、青空の下で見ないととっても悔しいと思う。
天気なんてどーしようもない部分もあるけど、それは一番考慮した方がいいかな。
結局、自分は最後まで好天には恵まれなかったけれど、雨季に二時間程度の雨で済んだのはラッキーだ。
たった四日間だが、過ごしたホテルの部屋も名残惜しかった。
ここが拠点だったから、色んな場所へ繰り出せたとの想いもある。
最後にお世話になったホテルの写真を取り、空港まで連れて行ってくれるバスが来るはずのロビーへ向かった。
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